農業用プラスチック資材の削減・代替技術導入ガイド:環境負荷低減とコスト削減への道筋
はじめに:農業におけるプラスチック資材と環境負荷
農業生産において、マルチ資材、育苗ポット、支柱、結束材、コンテナなど、様々なプラスチック資材が広く利用されています。これらの資材は、作物の生育促進、病害虫防除、作業効率向上などに大きく貢献してきました。しかし、その一方で、使用済みのプラスチック資材の処理問題、土壌や水系へのマイクロプラスチック(5mm以下の微細なプラスチック片)の流出といった環境負荷が指摘されるようになっています。
長年農業に携わってこられた皆様の中には、こうした環境問題への関心が高まり、持続可能な農業を目指す上で、プラスチック資材の見直しを検討されている方もいらっしゃるかと存じます。新しい技術や資材の導入には、コストや効果、使い勝手に関する不安が伴うかもしれません。
本記事では、農業分野で環境負荷を低減するためのプラスチック資材削減・代替技術について、その種類やメリット・デメリット、導入のポイント、費用対効果、利用可能な情報源などを具体的に解説し、皆様の技術導入検討の一助となることを目指します。
農業用プラスチック資材削減・代替技術の概要
農業におけるプラスチック資材の削減・代替には、主に以下のような技術や資材が考えられます。
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生分解性プラスチック資材の活用:
- 微生物によって自然環境下で最終的に水と二酸化炭素などに分解される性質を持つプラスチックで作られた資材です。マルチ、育苗ポット、誘引ひもなどに利用されています。
- 使用後に回収・廃棄する手間が省ける場合があり、省力化につながる可能性があります。
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紙・パルプ等天然素材資材の活用:
- 紙やパルプ(植物繊維)を主原料とした資材です。育苗ポット、育苗トレイ、簡易的なマルチなどに利用されています。
- プラスチックに比べて環境中で分解されやすく、焼却時の環境負荷も比較的低いとされています。
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耐久性向上とリサイクル・リユースの推進:
- より丈夫で繰り返し使用できる耐久性の高いプラスチック資材(コンテナ、パレット、支柱など)を選定し、適切に管理・補修しながら長く使うことです。
- 使用済み資材を適切に回収し、リサイクルシステムに乗せることで、新たなプラスチック製品の原料として再利用します。
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代替可能な天然素材の活用:
- 竹、木材、ワラ、モミ殻などの天然素材を、支柱、柵、マルチ、土壌改良材などとして活用します。
- 地域で入手可能な素材を利用することで、運搬に伴う環境負荷やコストを削減できる可能性があります。
環境負荷低減への貢献
これらの技術や資材の導入は、以下のような形で環境負荷低減に貢献します。
- プラスチックごみ排出量の削減: 生分解性資材や天然素材資材を使用することで、回収・廃棄が必要なプラスチックごみの発生量を減らすことができます。
- マイクロプラスチック汚染の抑制: 土壌中に残存しやすいプラスチックの量を減らすことで、雨水などによるマイクロプラスチックの流出リスクを低減します。
- 資源循環の促進: 耐久性資材のリユースや使用済みプラスチック資材のリサイクルにより、石油由来資源の使用量を削減し、資源の有効活用を進めます。
- 焼却・埋め立て負荷の軽減: 廃棄されるプラスチック量が減ることで、焼却施設や埋め立て処分場への負荷を軽減します。
導入のメリット・デメリット
環境負荷低減以外にも、導入によるメリット・デメリットが存在します。
メリット:
- 環境配慮型農業としてのイメージ向上: 消費者や取引先に対して、環境問題に積極的に取り組む姿勢を示すことができます。
- 作業の省力化: 生分解性マルチのように、使用後に畑にすき込むことで回収・廃棄の手間が省ける資材があります。
- リサイクル・廃棄コストの削減: 適切にリサイクルしたり、自然分解される資材を使ったりすることで、廃棄物処理にかかるコストを削減できる場合があります。
- 新たな販路開拓の可能性: 環境負荷低減への取り組みは、エコ志向の消費者や企業への販売につながる可能性があります。
デメリット:
- 導入コストの増大: 生分解性資材や一部の代替資材は、従来のプラスチック資材に比べて価格が高い場合があります。
- 機能性・耐久性の課題: 生分解性資材は分解期間や強度が作物や地域環境によって異なったり、紙資材は耐久性が劣ったりする場合があります。
- 使用条件の制約: 特定の作物や栽培方法にしか適さない資材もあります。
- 情報の不足や慣れの問題: 新しい資材の情報が少なく、使い慣れるまでに時間や試行錯誤が必要になることがあります。
具体的な導入事例と手順
実際の導入は、現在使用している資材の種類や栽培体系によって異なります。いくつか例を挙げます。
- マルチの代替: ポリエチレンマルチから生分解性マルチや紙マルチへの切り替え。まずは一部の圃場や作物で試験的に導入し、分解速度、強度、効果(保温、保湿、雑草抑制)を確認します。
- 育苗ポット・トレイの代替: プラスチック製ポット・トレイから紙製ポット(ジフィーポットなど)やパルプモールドトレイへの切り替え。育苗期間中の耐久性、移植時の作業性、コストを比較検討します。
- 支柱・結束材の代替: プラスチック製支柱から竹や木材、より耐久性の高いグラスファイバー製支柱への切り替え、プラスチック製結束ひもから紙製ひもや麻ひもへの切り替え。強度、耐久性、コスト、繰り返し使用の可否などを考慮します。
- コンテナ・パレットのリユース・リサイクル: プラスチック製コンテナやパレットを大切に使い、破損しても修理したり、専門業者によるリサイクルシステムを利用したりします。洗浄・消毒の手間やコストも考慮が必要です。
導入検討の基本的な手順:
- 現状把握: 現在どのようなプラスチック資材をどれだけ使用し、どのように処理しているかを確認します。
- 目標設定: どのような資材を、どの程度削減・代替したいか、具体的な目標を設定します。
- 情報収集: 導入可能な代替資材の種類、メーカー、価格、使用方法、導入事例などの情報を集めます。普及指導センターや農業資材メーカーの展示会なども有効です。
- 試験導入: 小規模な面積や数量で実際に代替資材を使用し、効果、使い勝手、課題などを検証します。
- 本格導入: 試験導入の結果を踏まえ、本格的な導入計画を立て、実行します。
費用対効果と利用可能な補助金・相談先
新しい資材導入にあたっては、初期コストだけでなく、ランニングコスト、作業時間、廃棄コスト削減効果などを総合的に評価することが重要です。一見高価に思える資材でも、回収・廃棄コストや省力化による人件費削減を考慮すると、長期的に見てメリットが大きい場合もあります。
環境負荷低減に資する技術導入に対しては、国や地方自治体、農業団体などが支援制度や補助金を用意している場合があります。これらの情報は常に変動するため、最新の情報を収集することが重要です。
- 情報収集の方向性:
- 農林水産省のウェブサイトや各都道府県の農業関連部署のウェブサイトを確認する。
- 地域の農業団体(農協など)や普及指導センターに問い合わせる。
- 農業資材メーカーや関連する展示会・セミナーで情報を得る。
相談先:
技術導入に関する具体的な相談先としては、以下が挙げられます。
- 普及指導センター: 地域の農業技術に関する専門家が相談に乗ってくれます。地元の気候や土壌条件に適した資材選びや栽培方法についてアドバイスを受けられます。
- 農業資材メーカー・販売店: 製品に関する詳細な情報や試験データ、導入事例などを提供してくれます。
- 農業団体: 地域での共同購入や情報共有の機会がある場合があります。
- 技術コンサルタント: より専門的な視点からのアドバイスや導入計画の策定支援を受けられます(有料の場合があります)。
複数の情報源や相談先にあたり、多角的な視点から検討を進めることを推奨します。
まとめ
農業におけるプラスチック資材の削減・代替は、持続可能な農業を実現し、将来にわたって豊かな環境を維持していくために避けては通れない課題の一つです。生分解性資材、天然素材資材、リサイクル・リユースの推進など、様々な技術や取り組みが存在します。
新しい資材の導入には、コスト増や使い勝手への懸念もあるかと存じますが、環境負荷低減だけでなく、作業の省力化や新たな価値創出につながる可能性も秘めています。まずは現状を把握し、小さなステップから試験的に導入を進めることが現実的なアプローチと言えます。
利用可能な補助金制度や地域の相談先を活用しながら、皆様の農業経営に合った形でプラスチック資材の見直しを進めていただければ幸いです。本記事が、その第一歩を踏み出すための一助となれば幸いです。